えっ!矢上さんは何もしていないの?

【司会】 本件の起訴事実は,共謀共同正犯と言って,矢上さんは,「共謀行為」つまり贈賄の事前謀議に参加したということになっていますが,そのような共謀はなかったということですよね?

【矢上】 はい。もちろん,全く私のあずかり知らない話です。裁判を通してずっと訴えてきたことですが,原先氏を助役に選任する議案については,間違いなく可決されるものと確信していました。
それに,そもそも議員さん方に賄賂を渡してまで原先氏を助役にしなければならないという理由もありませんし。おそらく,議員の研修旅行に際して,一部の方々の間で餞別のやりとりがあったんでしょう。
それを贈賄だとでっちあげられたのが今回の事件であり,私は全く関係しておりません。公訴事実に挙げられている事前謀議には一切参加しておりませんし,そもそもそんなものは存在しません。

【司会】 矢上さんを交えての共謀があったんだ,と言っている人が一人いましたね?

【矢上】 はい。贈賄の共犯者とされている元村会議員の方で,私と政治的に対立していた方でした。

【司会】 その人物はつまり,ありもしない虚偽の事実について「自白」しているというわけですが,その「自白」を裏付けるような客観的な証拠が何かあったんでしょうか?

【矢上】 その元議員さんが,ワープロで日記を克明につけていて,それに謀議のことが詳細に書かれていると警察で言われました。会計帳簿と同じくらい信用性のある証拠だから否認しても無駄だと散々脅されました。


【司会】 警察での取調の時に,その日記は見せてもらいましたか?

【矢上】 表紙だけ見せられて,これを見せることができればいいのにな,と言われましたが,結局中は見せられることはありませんでした。実物を見せないまま,ここには詳細に書いてあると言うだけでした。

【司会】 その日記は裁判の中で弁護団が入手して矢上さんと中身を検討しましたが,実際には謀議についての記載などはありませんでしたね。

【矢上】 は い。ゴルフ場で会ったなどとは書いてありましたが,謀議があったなどとは一箇所も書いてありませんでした。しかも,ゴルフ場であったとか,借家であったと いう漠然とした記述はありましたが,それもとってつけたような内容で,事後的にワープロで改ざんしたのではないかという印象を持ちました。

【司会】 一審で,検察官がその日記を証拠として申請した際,弁護団が,その日記はワープロ打ちでいくらでも改ざんできるものだから信用できないということを主張したら,裁判所は証拠に採用しませんでしたね。

【矢上】 はい。一審では,その日記がワープロだからいくらでも改ざんできるということや,実際に更新日時もめちゃくちゃになっていることを指摘したら,裁判所が証拠として採用しませんでした。
検察官寄りの態度が目立った一審の裁判所ですらまともな証拠ではないと認めた程度のずさんな日記を,さも確実な証拠のように言って自白を迫った警察官の態度には腹が立ちますね。

【司会】 内川先生,その日記は,控訴審では逆に弁護団が証拠として申請して,証拠採用されましたね。

【内川】 一審では,改ざんされたおそれの高い日記を証拠に使われたくないという考えから,日記を不同意にして証拠から排除してもらいましたが,控訴審では,逆に,その人物が信用ならないことを裁判所に分かってもらうために,方針を転換しました。
というのは,その日記は,矢上さんの関係する部分については,例えば謀議が行なわれたとされる借家に居合わせてもいないのに居たかのように改ざんされた可能性が高いと考えていますが, それ以外の部分については,実際の出来事が書かれていると思われます。長期間にわたって作成されて分量も多いですから全て捏造とも考えられないので。そして,その日記の中には,暴力団関係者とつきあいがあることなんかも書かれていますし, 特に大事なのは,平成15年の秋頃から,平成17年1月の逮捕直前までの1年以上に渡って,その人物が何度も警察関係者と会って,打合せを重ねてきたことがはっきりと書かれていたことです。あげくには,警察はいつ立件するのか,などと急かすような記述もあります。
その人物が矢上さんを陥れるため,警察と一緒になってこの事件をでっち上げたことは明らかだと考えています。

【司会】 一審では,この人物の自白証言が信用できるということで有罪判決になっているわけですが,控訴審ではその信用性を崩すことができたでしょうか。

【内川】 い まお話ししましたように,その日記には警察との打合せ状況が詳細に書かれていたので,その人物が警察と一緒になって捏造した事件だという弁護団の主張が説 得力を持ったのは事実だと思います。また,その人物の暴力団関係者らとの交際関係や,あるいは過去のよくない行状等も証拠として提出しました。
福岡高裁の裁判官も,その人物が,信用ならない人物だとは理解してくれたと思います。また,その日記の記載に基づいて,それまで存在が明らかでなかった警察官に対する供述調書が新たに証拠開示されました。
それらの新しい調書を見ると,その人物の供述内容が,とても不自然に,大きく変遷してきたことが明らかになりました。例えば,その人物は,この裁判では一 貫して,チサンゴルフ場で謀議が行なわれたと主張してきていますが,初期の調書では,ゴルフ場で助役選任の話をしたことは一切無いと供述しています。
かなり後になって,そういえばゴルフ場で謀議をした,と不自然に供述を変えているのです。これは,元助役を含む関係者全員が揃ったのがゴルフ場だけだったので,ゴルフ場で謀議をしたことにしなければ,元助役を犯行に引き入れられないことが分かったからだと思います。
このように,警察と打合せを重ねる過程で,でっち上げた事件の筋立てに無理があることがわかって,これを補うために供述を変えたというところがいくつもあるのです。
本当に経験した事実を,真実の記憶に基づいて話していれば,このように核心部分が何カ所も大きく変遷することなどあり得ません。高裁はこの点をきちんと理解してくれたにちがいないと期待しています。

【司会】 警察の調書には,その人物が本件をでっちあげた動機について,政治的な動機を臭わせるようなことも書いてありましたね?

【内川】 ええ。その人物はリコールで村議を解職されているのですが,リコール運動を扇動したのが矢上さんだと邪推し,警察を利用して矢上さんを失脚させたいという気持ちが述べられています。
また,川辺川ダムを巡る政争も背景にあったと思います。