矢上事件に取り組んで

【司会】 この裁判が始まってから3年が経とうとしています。河口弁護士はこの長い裁判の最初から関わっていますね。

【河口】 はい。私は平成16年の10月に弁護士登録し,平成17年の1月末からこの事件に関わっていますので,弁護士になった当初からずっとこの事件をやっていることになります。
矢上さんが逮捕されたことを受けて,塩田先生,原先生,そして私の3人で交互に警察署に面会に行くことになりました。
もちろん矢上さんのことはよく存じ上げていたのですが,相良村の動きについては正直よく知らなかったので,とりあえず警察に駆けつけて,何が起きたのか話を伺いました。
矢上さんの話を伺うと,これは冤罪だな,とすぐに直感しました。何しろ,「村長らが村議に贈賄」という事件内容が前代未聞,物証もない,共犯者に怪しい人物がいる(笑)
連日交代で接見し,情報を交換して整理するうちに,完全なでっち上げの冤罪事件であるということが次第に鮮明になってきました。
だから最初は楽観的な感じもありました。もしかしたら起訴されないんじゃないかとか。
しかし結局,捜査側が捏造のストーリーに乗っかってしまい,平成17年2月17日に起訴されました。

【司会】 一審の公判も長かったですね。

【河口】 はい。一審の弁護団は塩田先生,内川先生,原先生,私の4人でした。一審では判決も入れて合計27回の公判が開かれました。
贈賄側共犯者とされる3名の証人尋問や,その他の証人数名の証人尋問,被告人質問など,あらゆる立証を試みましたが,無罪判決には至りませんでした。

【司会】 保釈をとるのも苦労しました。

【河口】 はい。10回目の保釈請求でようやく認められました。そのうち3回は抗告しています。この他にも接見禁止に対する準抗告と特別抗告をしました。人質司法の典型だと思います。
幸い,矢上さんは虚偽の自白には至りませんでしたが,普通の人ならあきらめて虚偽の自白に応じてしまっていたでしょう。
結局,全ての尋問が終わるまで保釈が認められませんでした。

【司会】 控訴審の公判は一審と争い方が変わりましたね。

【河口】 はい。まず,小池先生と板井先生,李先生のお三方を新たに弁護団にお迎えし,戦力を強化しました。
そして,この事件をでっちあげたと我々が見ている共犯者について,その信用性を崩すことに全力を挙げました。
そこで,事実関係や証拠を全て洗い直したところ,その人物がワープロで作成していた日記に,本件の立件前に警察と1年以上に渡って打合せをしていたことや,黒い人脈との交際などが記載されていることに気づきました。
つまり,その人物が警察と癒着して,本件をでっちあげていったことが証拠上明らかになったのです。また,その人物の交際関係や,過去の行状等から,到底信用ならない人物であることも強く主張しました。

【司会】 控訴審の審理内容は納得できましたか。

【河口】 弁護団は全力を尽くしたと思いますが,重要証人を裁判所が採用してくれないことに不満が残りました。早く審理を打切ろうとする姿勢が疑問でした。
しかし,それでも,裁判官に無罪を確信させるだけの主張立証ができたと考えています。